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東京高等裁判所 昭和53年(く)351号 決定

少年 M・B(昭三五・八・一五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

少年が抗告申立書で言おうとする点の要旨は、原裁判所が少年を中等少年院に送致する旨の処分をしたことにつき、社会から隔離されることに不満はないけれども、少年が、少年鑑別所内で十分反省し、今後は正しい行動をすることを誓い、その実行の方法として、調理師学校へ通うためや、病弱の母親を助けるために、資金を蓄えたいので、短期処遇を受けることのできる少年院へ送致してもらいたいというのである。

よつて、少年保護事件記録、少年調査記録および証拠物を調査して検討すると、本件の事実関係は、原決定が認定判示するとおり、少年が、

一  昭和五三年五月二八日午前一時四五分ころ、少年の所属する暴走族○○の構成員ら多数とともに、数十台のオートバイ、乗用自動車を連ねて、船橋市○○町所在の株式会社○○給油所に乗りつけ、同給油所店員Aに対し、「給油しろ。」「ぶつとばすぞ。店をぶつこわすぞ。」などと脅迫し、長さ一・五メートルの「○○」を表示する旗竿を振り廻すなどしたうえ、同店員が、少年らの行動に恐れを抱いて、抵抗できない状態にあるのを利用し、同給油所レジスターから給油所長管理の現金三万円を強取し、

二  同年四月一六日午前零時五五分ころ、東京都品川区○○埠頭地内を通行中の自動車内で、正当な理由がないのに、びん入りのトルエンを、吸入の目的で所持し、

三  同日午前一時ころ、同都江東区○○地内の湾岸道路上で、公安委員会の運転免許を得ていないのに、自動二輪車を運転した

というものである。関係記録によると、

1  少年の父は、少年が小学四年生のとき病死し、少年は、以後母の手一つで育てられ、母が外で働かなければならなかつたことと、少年の家庭には、母のほか三歳年長の姉一人がいるだけであることなどのため、少年は十分親兄弟の監督を受けないで生長したこと、

2  少年は、中学二年のころ、ボンド吸引やオートバイ遊びを始め、窃盗(オートバイ盗)、暴行(少年に殴られた高校生が、事件を警察に届け出たため、その高校生を殴打)の非行を犯し、千葉家庭裁判所で、試験観察を経た上で昭和五一年九月一六日、保護観察に付されたこと、

3  少年は、同年春、高等学校に進学したが、オートバイの無免許運転中、交通事故を起こしたり、事故で自ら重傷を負つたりし、欠席が多く、そのため翌春も翌々春も進級できず、同五三年三月、高等学校を中途退学したが、同五二年春ころからシンナーの吸引を始め、同年夏ごろから暴走族○○の集会や暴走に参加して、オートバイの無免許運転をくり返し、同五三年一月、右○○の自動二輪車部門のリーダーとなつたこと、

4  少年は、昭和五三年四月、調理師学校に入学したが、同月、暴走族の集会に参加中、原判示第二、第三のとおり、トルエンを所持したり、無免許運転をしたこと、

5  同年五月、○○構成員らが原判示第一の日時にガソリンスタンドを略奪するに際し、少年は、卒先して、○○を表示する旗を付けた竿を振り廻し、店員に脅し文句を並べ、他の少年がレジスターを荒しているのを見て、自らもレジスターから現金三万円を手掴みして逃走したものであること、

6  少年は、知能に欠陥はなく、精神障害も認められず、常識的な判断力もあつて、自己の誤つた行動を反省することもできるが、自分の行動を長期間にわたつて制御することができず、情緒が不安定で、気分にむらがあり、小さい刺戟で行動に影響を及ぼす傾向があること、などの事実が認められ、少年の非行に至る傾向がかなり根深いものであることをうかがい知ることができる。

そうであるとすれば、少年が、現在は暴走族から脱退し、まじめに生活しようと決心していること、少年の母が、千葉県議会議員Bの助力で、今後少年を厳重監督したいといつていること、原審において、附添人の努力により右ガソリンスタンドに金一〇万円を支払つて示談を遂げ、右スタンドの責任者から少年の寛大な処分を望む旨の上申書が提出されたことなど、少年に有利な事情を考慮に入れてみても、少年を中等少年院に送致した原裁判所の処分は、相当であるといわなければならない。

なお、原裁判所は、右決定に際して、少年を短期処遇課程に従わせるよう勧告していないけれども、少年の非行が、中学二年のころから続いて発生しており、かなり根深いものであること、少年の非行が、交通関係とかシンナー吸引とか、一種のものに限られておらず、多種類にわたるものであること、少年の家庭の監督能力が十分でないことなどを考えると、短期処遇によつて少年の性格矯正、非行再発の防止に著しい効果を挙げられるであろうとまで、自信をもつて断定することはできない。してみると、原決定が短期処遇の勧告をしなかつたのは相当である。

よつて、少年法三三条一項により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 綿引紳郎 裁判官 石橋浩二 藤野豊)

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